B:百手の勇士 舞手のサヌバリ
アバラシア雲海に棲まう獣人、バヌバヌ族には、優れた狩人や戦士が少なくないわ。
特に「舞手のサヌバリ」と呼ばれ、同族からも崇敬を集める二刀使いは、侮れないわよ。薔薇騎兵団との小競り合いでも、目立つ存在だというしね。
ちなみに「舞手」と呼ばれるのは、戦いを前にした威嚇の舞いがひときわ華麗だからだって。ただ、踊っている分には、無害なんだけどね。
~クラン・セントリオの手配書より
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ショートショートエオルゼア冒険譚
あたしと相方は並んで地面に座り込んで、あたしは頬杖をついて、相方は行儀よく三角座りでそれを眺めていた。野次馬のように集まってきたピヨちゃん達…いや、失礼、バヌバヌ族たちが周りを囲み、動きに合わせ時々歓声をあげる。
鳥類をルーツに持つバヌバヌ族は男性のルガディンより一回り程大きく羽毛に包まれたふくよかな体形をしていて、顔は鳥そのものだ。どういう声帯になっているのかは知らないが人にも通じる言語を話す。外界と隔離されたこの浮島で独自の進化を遂げたこともあり、太古の風習に従い、浮島を喰らう空飛ぶ白鯨ビスマルクを信仰して暮らしている。
バヌバヌ族にはいくつかの部族があったが武闘派であるブンド族が神降ろしによりビスマルクを顕現させ、その勢いで他の部族次々と駆逐した。残すは平和主義の穏健派ズンド族だけとなっている。そのズンド族もかなり追い詰められている状況だ。
そして今目の前にいるのは武闘派のブンド族。そのブンド族きっての猛者と言われているのが数十分前からあたし達の前で必死に舞を踊っている「舞手のサヌバリ」だ。
イシュガルドの薔薇騎兵団も苦戦したと聞いているが…これはやはり舞の途中で攻撃してはいけないというローカルルールがあるのだろうか。あたしがコッソリ立ち上がろうとすると、相方が神妙な顔を横に振ってそれを制する。
そもそも何故サヌバリがモブハント手配されたかと言えば、金属の加工技術を持たないバヌバヌ族がアバラシア雲海に進出した薔薇騎兵団の持っている武器が欲しくて堪らず薔薇騎兵団を襲撃したのが理由らしいのだが、よくよく聞けば襲撃とはいっても奇襲攻撃を受けた訳ではなく、薔薇騎兵団もこのバヌバヌの戦いの舞をしっかりじっくり最後まで鑑賞したのちに戦闘をして敗けているらしい。あたしは理解に苦しんで「何故さっさと攻撃しなかったのか」と素朴な疑問をぶつけてみたが「それが騎士というものだ」と一蹴されてしまった。なんとも不便なものである。
とにかく薔薇騎兵団は何度か襲撃を受け、その都度武器を奪われたらしい。今、舞も佳境に入り、出るはずのない汗をキラキラ飛び散らせているかのようにすらみえる程、よりいっそう情熱的に舞っているサヌバリも両手に金属製の刃物を持っている。おそらくイシュガルド製のショートソードなのだろう。
そんなことを考えているうちに野次馬の歓声が大きく盛り上がり、サヌバリはビシッと決めのポーズをとると10秒ほど余韻に浸る様にじっとしていた。
「ごめん…浸ってるとこ悪いんだけど、終わった…のかしら?」
あたしは遠慮しがちに聞いてみた。なおも5秒ほど黙ってジッとしていたサヌバリが姿勢を正し、あたし達に向き直った。あたし達は服の埃を払いながらダラダラと立ち上がった。
あたし達が完全にダレた態度で向き合うのをまってサヌバリが声を上げた。
「どうだ!素晴らしかっただろう!恐れおののいたか!」
見るとサヌバリはハァハァと息を切らし、肩で息をしている。
「息きれてるやん…」
相方が労わるようにいった。
「多分張り切り過ぎたのね」
あたしも敵ながらサヌバリが心配になってきた。だがサヌバリはそんな雑言をものともせず高らかに言い放った。
「バヌバヌにとって舞は神に捧げる神聖なものだ。その舞が優れているという事はわたしが神聖な存在であるという事の証明に他ならない。そして私が二刀流なのは舞の動きのまま戦えるからだ。つまり、この戦い自体神への捧げものなのだ。私が負けるはずがない!」
ドッと野次馬から歓声が上がる。中には感極まって泣いているように見えるバヌバヌもいる。
サヌバリが深呼吸するように深く呼吸をし双剣を構え叫んだ。
「いざぁ!!」
それに合わせるようにあたしは少し前から詠唱を始めていた魔法を放った。
「すりぷる…」
「えっ…」
相方が驚いて振りむく。
サヌバリは体を大きくグラッと揺らつかせたか思うと前のめりに地面に倒れ込んだ。
「それはちょっと意地悪なんじゃ…」
あたしは肩を竦めて舌を出した。
戸惑いざわつく野次馬に囲まれてサヌバリはイビキを立てて眠っていた。